C-POPの中でも一味違ったシンガーソングライター。去年の5月から書こうと思っていて忘れていた人です。
庭竹 (ティンチュー)。通称ジャスミン。台湾のシンガーソングライター。2007年に26歳でデビューし、今までに2枚のアルバムを出しています。ほとんどの曲を自身で作詞作曲し、ギターもピアノもこなすアーティスト系です。音的にはライトロック系で、C-POPにしてはバラード率は低く、独特のメロディラインと歌い回し、そして少し口ごもった歌い方が魅力です。4歳からピアノを始め、7歳の時に母親から張雨生 (チャン・ユーシェン) のアルバムを貰ったことがきっかけで音楽創作を始めたと言います。今までの2枚のアルバムは彼女がアメリカ留学中に出会ったルポ・グローイングというプロデューサーが編曲、演奏、ミキシングなど、全面的に彼女をフォローしていて、ほとんど2人でアルバムを作っているような感じもします。演奏者の名前も全て欧米人の名前なので、おそらくルポの人脈と思われ、アルバムは2枚ともほぼ同じメンバーで作られています。レコーディングのメインもアメリカで行なわれているようです。編曲もブラスが使われていたり、C-POPらしからぬ音が時々出てきます。とかくギターをかき鳴らしながら歌うタイプの人は泥臭くなりがちですが、そのニュアンスを残しつつもアメリカンロックのフォローで少し垢抜けた音になっています。日本のYUIに近い感じでしょうか。
2枚のアルバムをまとめて紹介します。
「雨聲」CD+DVD 2007年4月3日
歌詞 iTunesストア試聴
CD 01. 喜歡你
02. 小女人
03. 現在的你
04. 雨聲
05. 負荷
06. 距離
07. 騙自己
08. 放縱
09. 夢想列車
10. 憑什麼
11. 負荷 (acoustic version)
12. 遠方的祝福
DVD 01. 雨聲MVメイキング 02.
雨聲MV 03. 現在的你MVメイキング
04.
現在的你MV 05. 喜歡你MVメイキング 06.
喜歡你MV※MVリンクはYouTube
最初に表題曲「雨聲」のMVをYouTubeで見た時、少し張懸 (チャン・シュエン) の歌い回しに似ている感じがして、あのタイプのシンガーソングライターかと思ったのですが、アルバムを聴いてみると庭竹はあそこまで硬派ではなく、どちらかというと音作りを楽しむタイプです。この「雨聲」は自分に影響を与えた張雨生への思いを歌ったもので、間奏に庭竹の語りが入ってきます。ギターをかき鳴らして作ったと思えるこの曲からはどこか泥臭い雰囲気が魅力として聞こえてきます。
1曲目はややアイドルポップっぽいアレンジがされていますが、これはレコード会社的にどう転んでもいいようにこういうものを1曲入れておかないといけないのでしょう。しかし後半のボーカルアレンジなどとても凝った作りになっていて、間奏の盛り上がりなどプロデューサーのルポが思いっきり楽しんでいるように思えます。2曲目からはかっこいいアメリカンロックが聞こえてきます。しっとりと始まるバラードも、どこまでもロックとして展開をしていきます。
7曲目「騙自己」がかっこいいサキソフォンが聞こえてきてアメリカのテレビ番組のオープニングを思わせます。8曲目「放縱」はレゲエですが、メロディがどちらかというとカリビアンな雰囲気です。ボーカルアレンジや演奏もかっこよく、これを中国語で歌っているというのは不思議な感じですが、妙にマッチしてエスニックな感じもします。
ルポの力がかなり大きいようです。バックの音は時々C-POPを聴いている感じがしなくなります。それとおそらく1枚目のアルバムということで、それまで庭竹が作ってきた曲から厳選されたのでしょう。ユニークな曲も何曲か入っていて庭竹の作曲センスもなかなかのものです。
最初はこの歌手をどう捉えていいか、どう位置付けしていいか分からない感じでしたが、何度も聴いていると庭竹の顔が見えてきます。強烈なインパクトというものはないものの、とてもよくまとまったアルバムです。C-POPの多くは1曲ずつ違うプロデューサーで違うメンバーで作っていき、アルバムをトータルで見る人がいないような作り方をしていますが、これは全体を同じメンバーで作り上げています。
ちなみに前述の庭竹に影響を与えたという張雨生という人は、歌手でありアーメイを育てたプロデューサーとしても有名で、惜しくも1997年に交通事故で亡くなり、すでに台湾では伝説的な人物になっています。
MVについて初回版にMV3曲と、それぞれのメイキングが入った豪華なDVDが付いています。この3曲のMVがどれも手作りアニメを取り入れた3人の監督による力作です。「喜歡你」はCGアニメがメインですが、間奏のところでコマ撮りアニメが出て来てきます。CGも手作り感があり、おそらく監督1人で根性で作っていると思われます。この監督もルポの人脈なのか欧米人です。「雨聲」MVもとても良くできています。1人の頭の中でまとめないと出来ない内容なので、これもおそらく監督自身がアニメまでやっていると思われます。この「雨聲」と「喜歡你」のMVが本当によくできていて私は好きです。
※この初回版には別バージョンがあるようで、ジャケ違いでDVDが台湾のリージョン3のものがあります。リージョン3だと日本ではPCでも再生できないと考えたほうがいいです。(
詳しくはこちらで)上のジャケ写のものはリージョンALLで大丈夫です。ジャケットはハードカバーの本になっていて、けっこう重いです。
「不做小木偶」 2009年05月15日
歌詞 iTunesストア試聴
01. 幸福的翅膀
→MV 02. 倒數的每一天
→MV 03. 小木偶
→MV 04. 變調
05. 出去走走
06. 冷夜
07. 異鄉客
08. 現實童話
09. 跑
10. 海
11. 極星
昨年2年ぶりに出たアルバムです。最近はC-POPではみんなこんなペースです。
さて、1枚目のアルバムを聞き込んでからこれを聞くと、まぎれもなく庭竹らしい音が聞こえてきます。同じメンバーで作っていますから、すでに彼女らしい音というのが出来上がっている気がします。ただ、ギターをかき鳴らして歌う泥臭い雰囲気はかなり影を潜め、全体に音がきれいになってやや地味になったイメージがあります。そして今回も1曲アイドルポップっぽい曲「小木偶」が入っていますが、これもブラスが入って面白いアレンジです。
しかし前半は地味なイメージがありましたが後半面白くなってきます。7曲目「異鄉客」が新しい挑戦と言う感じの曲で、重くあんにゅいな雰囲気で始まってドラマチックに展開します。ブラスとルポのギターがかっこいいです。8曲目も少しユニークな曲です。これのバックコーラスには、香港で今人気のG.E.M.(ジェム) という同じレーベルの女性歌手が参加しています。庭竹がG.E.M.に曲を提供しているのと、G.E.M.のプロデュースもルポがやっているので友情参加というところでしょう。
ラストの「極星」はゴスペルっぽいアレンジの重厚な曲で、このトラックは7分42秒もあります。曲としては4分あたりで1度終わり、そのあとにピアノとストリングスをメインにしたインストゥルメンタルが続きます。同じスケールの繰り返しでどんどん重厚になっていき映画音楽のように終わります。ちょっと知る人ぞしるアラン・パーソンズを思わせます。これを聞くとなんだこれはと思いますが、ルポの思い入れなのかも知れません。
音的には1枚目と同様にまとまりはあるのですが、前半と後半の雰囲気のギャップなど、アルバムの構成的にはややまとまりに欠ける感じはします。私としては1枚目の方が好きですが、これはこれで思い入れたっぷりに作られていることは伝わってきます。
庭竹の面白い動画を見つけました。デビューした頃のものですが、庭竹は音で遊ぶのが好きなようです。
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YouTube - 庭竹上娛樂百分百(04/21/07) …サンプリングマシーンを駆使して1人アンサンブルをやっています。画も音もよくありませんが面白いです。司会のショウ・ルオが唖然としています。
※日本の通販ショップなどでは「ジャスミン・ティン」と書かれていますが、「庭 (ティン)」は名字なのでしょうか。「庭竹」でひとつの呼び名の芸名のような気がします。
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庭竹 公式サイト●
庭竹 公式ブログ●
庭竹影音日誌 - I'm tv チャンネル●
蜂鳥音樂 - HummingBird●
HummingBird YouTubeチャンネル
庭竹 tíng zhú ティンチュー (発音→)
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テーマ : 台湾ポップス - ジャンル : 音楽
タグ : 庭竹 ジャスミン・ティン 台湾女性歌手 CDレビュー