今日はこの古い曲にまつわる話です。
先月お知らせしましたが、滾石唱片が過去に所属した歌手の全MVをまだアップロード中です。このレコード会社はかつて台湾を拠点に、香港、大陸、シンガポール、マレーシア、更には韓国と日本にも現地法人を置き、80年代から90年代にかけてアジアで一大音楽帝国を築いた会社ですから、そのMVの数は半端ではないはずで、4月の初めあたりから毎日数十本ずつアップされ始めて、2ヶ月以上経ってもまだまだ終わりそうにない気配です。何がアップされるか毎日楽しみにチェックしております。
その中で私にはとても懐かしい曲が数日前にアップされました。
● 艾敬「我的1997」 - YouTube
艾敬 (アイ・ジン) は大陸のシンガーソングライターで、この曲には「私の1997」という邦題があります。ある年代以上の方ならけっこうご存知の方もいるかと思います。
発表されたのは1992年で、「1997年に香港が私たちのところへ返ってくる。行ってみたい。香港てどんなとこ?」という、イギリスからの香港返還を心待ちにする歌です。
この曲が1993年に日本のテレビでたくさん紹介されたのです。Wikipediaで調べてみると、本人も呼ばれてテレビ出演したそうです。当時私もこのMVをテレビで日本語字幕付きで見ており、今観ると断片的に記憶が蘇ります。
当時、この曲は私も含めていろんな意味で日本人にかなりインパクトを与えたのです。
ネットもなかった当時は中国の情報なんてあまり入ってこなくて、記憶に残るのは89年の天安門事件ぐらいです。中国は今の北朝鮮ほどではないものの一般にはまだまだ得体の知れない国というイメージが残っていました。日本人は香港に対して「あんな国に返されるのか」と同情していたのです。80年代からの香港映画ファンも日本にはたくさんいたわけで、「ジャッキー・チェンとかどうするんだろう」などと噂していました。
その頃香港では、「中国に返還されたら政府に財産を没収されるぞ!」という噂が広まり、金持ちや企業が続々と海外へ脱出し始めていました。(天安門事件もきっかけになっていたようですが)
ところが、その香港返還を心待ちにする素直な気持ちがこの歌で歌われていたのです。これは想像もしなかった発想です。「向こうは向こうでそんな風に考えていたのか。あの国にも日本人と同じような人間が住んでいる」というのがその時の率直な感想でした。それに、中国と言えば人民服というイメージがまだあった中で、あの国にこんなポップスが存在するということ自体が驚きでした。「これから中国は開かれていくんだろうか」などとぼんやり思ったものです。
この曲は「ある時代を反映した1曲」と言えるでしょう。
後に台湾のレコード会社がこの曲をプロデュースしたことを聞いた事があり、それが滾石唱片だったことを今回知りました。
この曲は日本で話題になり、艾敬は日本のレコード会社と契約して日本でもCDを出しました。「我的1997」は大陸と香港でもヒットしたようですが、結局「この歌を歌った人」というイメージはずっと拭えなかったようです。現在はニューヨークで活動しているそうです。
ちなみに、その後滾石唱片は各国から撤退し、台湾の普通の一レコード会社になりましたが、日本の滾石唱片であるロックレコードジャパンだけは今も残っています。独立しているのかどうかは分かりませんが、アジアのCDなどを販売する通販がメインの会社になっているようです。
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アジア音楽ショップ …このページの一番下に滾石唱片のマークが小さく入っています。
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艾敬 - Wikipedia●
滾石唱片 YouTubeチャンネル再生リスト …歌手別の再生リストもどんどん増えています。
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